石井 主税氏 らの研究 (2025)
図解:会話中の脳活動
この論文は、実際のカップルの自然な会話を記録し、相手が話している最中に聞き手の脳がどのように反応しているかを調べた画期的な研究です。
研究の結果、聞き手の脳反応は、「話し手の熱量」と「聞き手自身の性格(共感性)」という2つの要素によって変化することが分かりました。
以下で、その仕組みを直感的に見ていきましょう。
従来、脳波(EEG)研究は「実験室での不自然な会話」に限定されていました。なぜなら、従来の分析手法(ERP: 事象関連電位)は、「はい、今から画像を見せます(ドン!)」というような、明確なトリガー(刺激)とそれに対する反応を切り取る「スナップショット(静止画)」のアプローチだったからです。
しかし、自然な会話は「途切れることのない連続的な情報の波」です。これをスナップショットで切り取ろうとすると、文脈や流れという本質的な情報が欠落してしまいます。
本研究で採用されたmTRFは、会話という「動画」を動画のまま分析する技術と言えます。
連続的に変化する音声波形(包絡線)を入力とし、脳活動を出力とする「フィルター(関数)」を推定することで、「どのタイミングの入力が、どう脳を揺らしたか」を連続時間の中でデコード可能にしました。これにより、実験室の不自然さを排除し、「生きた会話」の脳活動を捉えることに成功しました。
相手の声が聞こえてから、脳は時間差で異なる反応を示します。これを「宅配便の受け取り」に例えて理解しましょう。
「おっ、荷物が来た!」
(初期の気づき)
声が聞こえて約0.2秒後。
無意識に注意が向いたことを示す。
「中身は何だろう?」
(深い処理)
約0.4秒後以降。
話の内容をじっくり考えている。
話し手が話題に興味津々で熱く語ると、聞き手の脳は「これは重要だ!」と瞬時に判断し、初期の反応(P2)が大きくなります。
話し手の興味レベルを変えてみよう。
スライダーを動かしてね。
聞き手が「他人の感情に敏感な性格(個人的苦痛が高い)」だと、相手の話を「深く処理」しようとするため、後期の反応(LPP)が長時間続きます。
聞き手の共感レベルを変えてみよう。
スライダーを動かしてね。
この研究は、私たちの何気ない会話の中で、脳がどのように相手と同期し、情報を処理しているかのダイナミックな姿を明らかにしました。